「なんだこれは。」

「俺に言われてもわからんって。月島。」

俺の目の前に信じられない光景が広がっていた。
なんと、ついこの間まで埃まみれゴミだらけだった廊下が、なんていうか…その、綺麗になっていた。
綺麗って高校生とかが放課後めんどくさそうに掃除した感じとかじゃなくて、もっとなんていうか…。

「プロの技?」

あぁ、それそれ。

「ってなんでわかった!?」

「顔にでとったで。」

…マジか。
くそ、こういう佐藤は苦手だ。

「あ、おはようごさいます。」

向こうから新入部長、結城が挨拶をしてきた。
まぁ挨拶は魔法の呪文だからな。
返すのが礼儀だ。
かといってあいつは気にくわないのでそっけなく返す。

「はよー椋ちゃん。」

「なんですかその呼び方。」

「かわえーやろ?」

「俺男なんですけど。」

「知ってるー。なぁ、これ掃除したん自分なん?」

「え?」

そういえばこいつの手には空のバケツが握られていた。

「はよー…、!?」

俺たちからしばらく遅れて知憲がやってきた。
やはりこの変貌に驚いているらしい。

「あ、ぶ…吉原さんおはようございます。」

「は、はよ。結城。これ…なに?」

知憲の言いたいことはもっともだ。

「汚かったから掃除したんです。」

「なんで!?」

念のため言っておくが、別に俺たちが汚い方が好きってことではない。
少し前に入ってきたとはいえ、しばらくこの環境にいたのになんで今更って意味だ。

「それは…。」

少し照れくさそうに新入りはいった。

「自分の商品が作りたくて。」

あいつの言葉で場が凍った。

「俺この前企画出してみてわかったんです。ここになんでこういう仕事しかこないのか。ここでどんな商品を作ろうとしても無駄だってこと。」

こいついつの間にそんなこと…。
ふと横をみると知憲だけ驚いていない。
お前の入れ知恵か。
 
「それで思ったんです。ひとりの力だけじゃどうにもならないかもしれない。でも、みんなでアイデアを出し合えばなにか糸口が見つかるかもしれない、と。その為にこの環境改善を試みたんです。」

新入りはまっすぐ真っ正面をみつめた。
…そういうことかよ。
けっ、気にくわねぇ。