「あれ、結城?」

部長が印刷し終わった企画書をとりに入ってきた。
こんなところ、この人にはみせられない。
急いで涙をぬぐう。

「なんですか?」

「帰ってたんだな。どうだった?企画書。」

「・・・。」

言えない。
あれだけ自分が偉そうに言っていたのにもかかわらず、このザマだ。
涙がこみ上げそうになる。
おさまれ、俺。

「・・・。通らなかったろ。」

「・・・・・・はい。」

「ここはさ、はきだめなんだよ。俺たちはどうあがいても落ちたまま上がることなんてできない。」

「・・・。」

部長は置いてある俺の企画書を読みながら寂しそうに言った。

「よくできてるよ、これ。普通だったら一発だ。」

「・・・当たり前です。自信がある物しか出しません。」

こみ上げる涙の波。
俺は精一杯虚勢をはった。

「慢心、してたんだよな。お前も俺も。あのときみたいに。」

部長は下を向いていった。

「俺も?そんなことないです。部長はあのとき1人だけ油断するなっていってたじゃないですか!」

「・・・。ま、これでわかっただろ。俺たちには何もできない。大人しく送られてくる書類を印刷して、ホッチキスでとめる。ただ、それだけ。」

コピー機から大量に吐き出された紙を台車にのせる。
部長の顔は見えない。

「部長はそれでいいんですか、それじゃあ俺たちは負けっぱなしですよ!あの時も!!今日も!!!」

背中を向けて印刷室を出ようとする。
部長の顔は見えない。

「お前は、負けっぱなしじゃない。」

台車の音だけが響く。
部長の顔は、見えない。