「この作文、コンクールに出さないか?」

「…え?」

この作文を!?

「いや、無理無理無理無理無理、無理です、先生。」

「何でだ?俺はめちゃめちゃ良く出来てると思うんだけど。」

「だ、っ、だってこんな作文。」

「…ああ、恥ずかしいのか?」

私はすごい勢いで頷きました。

「…じゃあ、この『川村』ってとこを『彼』に書き換えればいい。」

先生は薄い紙を作文の一番上の原稿用紙にぱちんとホチキスで止めた。

「応募用紙、つけておいたから。出す気になったらここに必要なこと書いて俺に出してくれ。期限はあさってまでだから。」

「…は、はい。」

作文と応募用紙を受け取って、それをバックに詰める。

「…川村さ。」

「…え?」

「お前が来る前?まだあいつがヤンキー扱いされてた時。高1の時だったんだけど、俺、その時もアイツの担任でさ。頭良くて、おとなしいやつだったんだけど、何にせよ目付きと口が悪くて、そのせいで本物のヤンキーに目え付けられてよく呼び出されるようになってさ。川村、一回だけ本気でキレてその連中を殴っちまったんだ。」

「…え?」

「昔、学校の近所にいた、捨て犬の親子がいてな。川村はこっそりその捨て犬の親子の世話をしていたんだ。ただ、いつ保健所に連れて行かれてもおかしくない状況で、川村、母親たちに交渉してその捨て犬親子を飼ってもらうことにしたらしいんだ。

それで…その捨て犬親子を家に連れて帰ろうとした日の事なんだけど。ヤンキーの集団が、その捨て犬親子を川に投げ込んだんだ。」