「なんでっ……なんでここに……!」
ふと目をやった方向に冬馬兄ちゃんが居た。
建物の陰、ひっそりと妹の幸せを見つめていた。
なんで気付いてしまったのだろう。
なんで走ってしまったのだろう。
なんで、涙が零れるんだろう。
「……か、帰ってたなら、言ってよ」
目を逸らし、視線も落とす。
せっかく会えたのに、泣き顔なんて見せたくなかった。
でも涙は止まらなくて、言葉もぶっきらぼうにしか出なくて。
ただ、嬉しかった。
「ごめん。ただいま」
久しぶりに見た冬馬兄ちゃんは少し痩せた感じがする。
でも凄く元気そうで、優しく笑っている。
「ただいま」の言葉に私は「おかえり」が言えなかった。
冬馬兄ちゃんはすぐに行ってしまう。
なぜだかそう感じたから。