好きだなんて言わなければよかった【完】




ある日、学校が早めに終わった私は、真生くんの家に遊びにきていた。






…真生くん帰ってきてるかな?






そう思いながら私は、機嫌よく真生くんの家に足を踏み入れる。




何も考えずに。





いつものように。





そう、それが間違いのもとだったなんて気づかずに…。






ねぇ、真生くん、…この日、今でも真生くんの家に行ったこと、私はずっと後悔してるんだよ。






中学生になってから、会う機会も少なくなっていた私と真生くん。



…真生くん、元気かな?




そう考えながら、真生くんの部屋へと続く階段をのぼる。






その時だった。





「…っ、ま、お…くん」




…な、に?




真生くんの部屋からそんなか細い女の人の声が聞こえてきたのは。



「うっせー、少し黙れよ」




そして、真生くんの声も。




でも、真生くんは、いつもの優しい口調じゃなくて、




なんていうか、荒々しい感じだった。






…今のって真生くんの声…?



私は、その声につられるように、真生くんの部屋の扉を少し開いて中を覗く。



―そして、




―――…そこには





真生くんとキスしている知らない女の人の姿があった。





うそ、誰…この人…






思わず、1歩後ろに下がった時、




カタン





私の足が何かにぶつかり、そんな物音がたつ。







「…誰?」





真生くんのそんな声が部屋から聞こえたかと思うと、私がいる場所に向かって足音が近づいてくる。





…どうしよう…。




私は、ゴクリと息を飲んだ。





もしかしたら、勝手に家に入ったことを怒られるかな?




一瞬、そんなことが頭をよぎった。





……だけど、今の私にとってはそんなことより、





真生くんとキスしていた女の人になんか会いたくないよ…。




その思いだけがぐるぐると、私の心の中に渦巻いていた。






「……は?…紗綾か?」





扉を開けた真生くんの少し驚いたような声。




なんでいるんだって思ってるんだろうな…。




私は、そう思うと、曖昧な笑みを浮かべた。




「あ、ゴメン。久しぶりに学校はやく終わっちゃったから…真生くんのところに来たんだけど…なんか、お邪魔しちゃったみたいだね……」




早口でそう言う私を、真生くんはただじっと見ている。





私は、その空気に耐えられなくて…




「……あ、私はもう帰るね、勝手にお邪魔しちゃって本当にごめんなさい。じゃあ、真生くん、またね」





心とは裏腹に体は勝手に動き出す。




本当は、真生くんとそこに立ちすくんでいる女の人を2人きりにしたくなんかないのに…。







「…紗綾、待てよ」





真生くんのその言葉に私は体が固まるのを感じた。





…やっぱり、怒ってるのかな?






「な、何…?」





そう思った私は体を固くして、おそるおそる真生くんに問いかける。







「…今度遊びに来るときは、オレに声かけてからにしろよ?」





ドキン




あぁ、いつもの真生くんだ。






ちらりと、真生くんを見ると、いつもの私と旭に向ける優しい表情だった。





「うんっ!」





私はそれが嬉しくて自然と笑みが溢れる。






「…とりあえず、紗綾、今なんか飲み物取ってくるから部屋で待ってろよ」




すると、




「…ちょっと真生くん!?今日は私と約束してたでしょ!?」




部屋を出ていこうとする真生くんに、





さっき、真生くんとキスしていた女の人が苛立ったようにそう叫ぶ声が聞こてきた。





けど、



「…あぁ、悪いけどあんた帰ってくれる?」




まるで興味がないといった表情を浮かべ、真生くんは冷たく、そう言い放つ。




「…なっ」





女の人もそんな真生くんの態度に言葉を失ったようで、




ギュッと唇を噛みしめ、荷物を掴むと、






「…っあんたもどうせ、真生くんの遊び相手の一人のくせにっ…」




今にも泣き出しそうな表情で、




私を睨み付けながらその女の人は、そんな捨て台詞を吐き捨てて部屋から出ていってしまった。





今、思えば、小学生相手に何言ってるんだって感じだけど、



6年生の時点で157センチあった私は、よく中学生や高校生に間違われていたから、たぶん、その女の人も、私を見て勘違いしたんだろうな…。



…それに、そんなことより、当時の私には、





“遊び相手の一人”





その言葉を理解しようと必死だっんだ。






「…ま、真生くん、あの…」





「…あの女が言ってたことは別に気にしなくていい、紗綾には関係ないことだから、な?」





ズキン




何それ…。





その言葉は、まだ幼い私の心を傷つけるには十分な威力だった。







「…関係ないなんて言わないで」




気づけば、私はそんなことを口走っていた。




「…紗綾?」




不思議そうにそんな私を見つめる真生くんにさらに私の胸が痛む。




「…好き、」




「…え?」




「私は、ずっと前から真生くんのことが好きなの!…だから、関係ないとか…言わないで?」