ピシャリ、と実際に音が鳴るかのように会話は強制終了された。用事がなくなったノートは、彼の手から放るように投げられ、私はそれを慌ててキャッチする。彼に視線を戻すと、もう既にゲーム機と向き合っていた。

彼が言っていたように、生徒会に入って間も無い新人が、偉そうに口出し出来ることではない。彼は年下だが、生徒会に関しては先輩にあたる。私は静かに、先日与えられた、三剣くんの隣の自席に腰掛けると、そのノートに記載されている予算案を正式書類に書き込んだ。会長が未だ不在の為、次にやるべき仕事は分からない。書類を書き終えると、彼との沈黙は再び訪れた。

「……み、三剣くん」

勇気を出して、話掛ける。当然のことながら、返事もなければ、視線がこちらに向くこともない。

「三剣くん」

気付いていないことはないはずだ。

「三剣くんってば」
「…もう!なんだようるさいな!」
「!!ご、ごめん!!!」
「謝るくらいなら話しかけないでよ。…で、今度は何なわけ」
「…あ、えっと」

まさか呼び掛けに応じてくれるとは思ってもみなかったので、話題など考えているはずもない。目を右に左にキョロキョロと動かして必死に話題を探す。そして、目に飛び込んできた《ある物》について話を持ち出すことにした。

「げ、ゲーム…好きなの?」

自ら話を振っといてなんだが、意味がわからないと思った。まず話に脈絡が見えない。目についたものをそのまま口に出したのだから、当然と言えば当然だが、これはあまりにも酷い。きっと彼はまた、仕事のこと以外で話しかけるなと冷めた視線を私に送るだろう。

ところが。

「…嫌いじゃない」

視線させ向けてくれなかったが、確かに彼はそう言った。

「好きなんだ、ゲーム」
「はぁ?話聞いてた?嫌いじゃないって言っただけで、好きだなんて一言も言ってない」
「えへへ」
「何笑ってんの。気味悪い。」

確かに、私の頬は完全に緩んだ。きっと気持ちが悪い。だけど、嬉しかった。何気ない会話でもいい、彼と話ができたこと自体が何よりも重要だ。勇気を振り絞って良かった。


「なーに笑ってるの?俺も混ぜてよ」