The Story~恋スル君ヘ~

「あ、あたしが・・・?」

「いいだろ?」



笑ってみせる。

笑顔の裏に、隠された気持ちがあることを、
君は知らないだろうけど。


立原は、急に挙動不審になって。
そのあたふたした様子もかわいくて。




「じゃ、じゃあさ」

「うん?」

「BCCタイムで放送するよ、夏帆と」

「三峰と?」

「功毅クン、喜ぶと思うし」

必死に絞り出したらしいアイデアに、
俺は思わずうなずいた。


「あー、それ、いいな」

「でしょ?」

「あいつ、あんなクールな顔して、
 けっこう三峰大好きだもんな」






そう。
俺に負けず劣らず、引っ込み思案な原沢。


その原沢が、三峰への想いを隠そうとはしない。




三峰と大喧嘩をした日は、
テニスのプレーが大荒れに荒れる。

三峰が満面の笑みを浮かべた日は、
あいつも軽やかに笑う。











そういう関係に・・・




俺たちもなれるだろうか・・・?
「それじゃ、まあ、頑張ってきますか」

試合は、少し向こうのテニスコート。
走らないと間に合わねぇかもな。




「うん。夏帆と一緒に応援してる」

にこっと、立原が笑う。
すげぇ、かわいい。


「さんきゅ」


小さくつぶやいたコトバは、
ちゃんと声になっていただろうか。




さぁ。
戦ってきてやろうじゃないか。

テニスコートが俺たちの戦場。
勝利を君に捧げるための、俺たちの戦場。




そう言ってたのは、原沢だったけな。




せいぜい、無様な負け方はしないように。
全身全霊を込めて、ボールを追う。
打つ。









君の心にも、届くように。




☆End☆
グラウンドから、休憩場所まで走る。
吹き抜ける風。
風がぬるくて、めちゃくちゃ蒸し暑い。

俺、古田 昌志は、にじみ出る汗をぬぐった。



休憩場所の水飲み場。

俺の所属するサッカー部連中が、
だらだらと座り込んでやがる。


ったく、アホだなぁ。



・・・そして。




「もぉー、ウチらの休憩場所まで侵攻しないでよぉー」


女子バスケットボール部のエース、
森瀬 玲ちゃんの声。


彼女、今のところ俺の想い人なんだ。

かっわいいなぁ、ほんと。
にやけちゃうぜ、全く。



グラウンド横の水飲み場は、他の部活も使う。
女子バスケ部も例に漏れず、だ。



だから、堂々と占領して邪魔をしている
アホな俺たちに文句を言いに来たんだろう。



・・・というのは分かっているんだけど、さ。
「だりーなー」

「何でこんな暑いんだろ・・・」

「あ、森瀬、売店で炭酸買ってきてくれよー」

「いいねー」

「森瀬、早くー」





サッカー部の好き勝手なコトバに、
森瀬は、眉を寄せる。



怪訝そうな顔すら可愛らしいのは、
惚れた弱みかなぁ。


さらっとしたストレートのショートヘア。

キラキラした大きな目。

そんなに長身ってワケでもないのに、
すらっとしてるし。



あーあ、ほんと、かわいい。
かわいすぎるぜ、森瀬ぇ。







よし、一ついいとこ見せてやるか。


「ったく・・・みんな、他の部活のヤツをパシるなよ」

森瀬が振り向く。
お、いいね。

髪の毛が風に揺れる。
とびきり綺麗だ。



「お、じゃあ、マサが行くのかぁ?」


同じクラスの井崎 翔吾がにやける。
こいつ、俺の気持ち知ってんだ。



「えー?そーゆー意味じゃねーけどさー」



超頑張って、理性的に振る舞う。
頑張ってること、バレてそうなんだけどさ。

好きな女の前ではかっこつけたいだろ。




「ごめんな、森瀬」


かっこつけてみる。
超努力。
超必死。


少しでも、かっこつけたいから。
「え、いや、いいよ、別に」

頭を横に振る森瀬。
やっぱ、魅力的。

最高。

森瀬マジ最高!



「わりぃな」


照れ隠しみたいに笑う。
森瀬も、ちょっと笑う。


「気にしてないよ、ほんと」

「でも、大丈夫か?」





気になる。


俺の仲間たちが、
必要以上にこいつを傷つけてないか。



気になるに決まってんだろ。
好きなんだから。
「最近ずっとだろ・・・?」


森瀬の顔をのぞき込んだ。

視線が絡む。

綺麗な目。
可憐な目。



俺が恋した、瞳。


「ぜ、ぜんっぜん平気だからっ!いや、むしろ、あたしこれからジュース買いに行くところだったからっ!」


なぜか真っ赤になる森瀬。

よく分かんねえけど・・・
かわいいな。



おっと。
顔を遠ざけられちまった。

ダメだな。
距離感、考えないと。





「サ、サッカー部のヤツらのも買ってくるねっ!」

「え、いや、俺行くよ?」

「や、ほんと、後でお金払ってくれたらいいからっ!」

「12人分は重いだろ。俺も行く」





よっしゃ。
森瀬と一緒に行動する口実。
ゲットしちゃったぜ。


このくそ暑いのも、何か嬉しくなる。
恋の不思議。



「森瀬はさぁ」


歩きながら、ふと訊きたくなった。
前から気になっていたこと。



「な・・・に?」

「いや、森瀬はどうして、バスケ部に入ったのかなぁ、って思って」

「・・・・・。」






別に、森瀬にバスケが似合わないとか
そういうのじゃない。



でも、あんまり森瀬が一生懸命だから。


あんまり綺麗だから。
あんまり眩しいから。


その理由を知りたくなったんだ。

森瀬の目が、きりっと真剣になる。

凛として。
まっすぐで。


あぁ、くそ。




溺れちまいそうになる。




「バスケって、目指すところが1つでしょ?」


森瀬がふいにつぶやいた。



俺の方を見ず、まっすぐに前だけを見て。