The Story~恋スル君ヘ~

夏休みの今日も、暑い中、
原沢くんは練習を頑張っている。


聞くと、最近あった県大会で、
強豪校の3年生を倒し、5位に入ったと。





私は、相変わらず、誰にも言わずに、
彼を見つめるだけの日々だ。



校舎の4階にある美術室の窓から、
テニスコートはよく見える。






そして、今日も・・・






「こーぉきーーーぃ!」

夏帆ちゃんが差し入れをしている。

お弁当かな。



近頃は、立原さんも吉野くんに
ジュースを持ってきたりしている。

賢太、って呼んでるから、
そろそろ付き合ったりとかするかもね。




・・・いいな。

少し淋しくなりながらも、私は鉛筆を走らせる。

スケッチブックには、
もうたくさんのテニスコートの風景。


夏休みに入ってから、描きはじめた、
ボールを追って駆け回るあの人の姿。







誰も知らないだろう。
誰も気づかないだろう。


私の気持ちなんて。


・・・知られなくていい。
気づかれなくていい。
このままでいい。









自分の気持ちに区切りをつけるため、
私は一つの絵を描いた。



夏帆ちゃんと原沢くんの似顔絵。




夏帆ちゃんの誕生日はそろそろだから、
そのときに渡そうかな、と思っている。










・・・もう、きっと大丈夫。
叶うだけが恋じゃない。






想うだけでも、きっと恋だ。
大切な、恋だ。





言い聞かせて、私は今日も、描いていく。
永遠に、誰にも知られない想いを。




☆End☆

心臓の音が、誰かに聞こえないか。


わけもなく不安になる。








今日は、放送部の大仕事。

番組制作の日だ。


この番組は、秋の文化祭で放映される。


毎年みんな力を入れている番組制作。



これは、放送部をいい意味で
「すごい」と言わせしめる唯一の武器。


今、あたしが立っているのは、
体育館の入り口。


体育館では、男子バスケ部が練習中だ。


男バスは、今年の高体連で、
見事に、全国大会出場を果たした。


地元のテレビ局でも報道されている。


2回戦で敗退しているが、
なかなか見応えのある試合だったと。






そこに目をつけたのが、ウチの放送部の
三峰 夏帆&立原 すももだ。


『今年の番組は、全国大会出場の
 男バスのドキュメンタリーにしよう』

『男バスは、人気もあるし』

『絶対盛り上がるよ』




その熱意に押され、放送部のみんなも承諾。

で、あたしは、この体育館で、男バス相手に
インタビューをするはめになったってワケ。


「さぁ、花。やってみせなよぉ」

横でニヤニヤしてる夏帆。


「早くぅ」

同じくにやつきながら急かす、すもも。






こいつら・・・
絶対おもしろがってる。








夏帆とすももが、
こんなにも、にやけてるワケ。




その理由って言うのは・・・




「おい、ドリブルは必要以上に焦るなって言っただろうが!」


大きな声で後輩を指導しているあいつ。

バスケのユニフォームが誰より似合う
あいつ。


同じクラスの野上 誓志だ。
“志を誓う”と書いて、ちかし。

めずらしい読み方だけど、素敵な名前だ。



その誓志は、バスケ部のエース。




顔はそんなにかっこよくないのに、
バスケにいそしむ姿は誰より男らしい。


そして・・・





あいつは、現在あたしの片想いの相手。



あたしの静かな片想いは、
2年生に入ったばかりの4月に始まった。




同じクラスになって、同じ班になって。



隣の席は誰だろうとドキドキしていたら、
声が落ちてきた。





『お、田川じゃん』




出身中学校も、1年生の時のクラスも
全然違っていたあたしたち。




でも、仲のいい友達だった。




誓志は、原沢の親友で。
原沢は、夏帆の彼氏で。
夏帆は、あたしの親友で。




しゃべる機会は、少なくなかった。





“親友の彼氏の親友”
ただそれだけだったのに・・・




『田川と1年間一緒かぁ』

にかっと笑って、誓志が呟いた。

『超嬉しいぜ!絶対楽しくなるからな!』




・・・・なんてバカなヤツだろうと思った。
こんな、なんの取り柄もないあたしに
何を期待しているのか、と。



でも。




その誓志のバカさ加減に、
心が揺れたのも事実だった。