The Story~恋スル君ヘ~

でも、今年の5月末のある日、
私の恋は、静かに終わりを告げた。



美術部の友達から、聞いた1つの噂。





『1組の原沢くんって、
 三峰さんのこと好きらしいよ』




思わず、キャンバスに向かう手が止まった。
頭の中が真っ白になった。





三峰 夏帆ちゃんは、私の幼馴染み。
明るい笑顔をした、闊達な子だ。


家が近くて、小学校の時は仲良しだった。



中学校は違っていて、放送部に入ったと
噂で聞いたくらいだった。




高校に入ってからは、接点もなくて、
お互いあまり話をしてなかったけど・・・




ちょっとショックだった。
それからしばらくして。



・・・6月に入ってすぐのこと。
私は、夏帆ちゃんと電車で乗り合わせた。


それは本当に偶然で。




『やっほー、七瀬、久しぶり!』

『あ・・・うん』

『どしたん、元気ないねー!』




屈託のない笑顔をした夏帆ちゃんは、
ごく自然な様子で、私の隣に腰掛けた。




『最近、どう?美術部、がんばってる?』

『う・・・ん、まあまあかな』

『いいねー、ウチの放送部はダメダメだよー』

『そんな・・・夏帆ちゃん、頑張り屋じゃん』

『えへへ・・・そう?』

『原沢くんともいい感じなんでしょ・・・』





その瞬間。
夏帆ちゃんの目が丸くなった。





『七瀬も知ってるんだ?』
私は、その言葉を聞いて、全てを悟った。
噂が本当であること。




夏帆ちゃんが、本当に、本当に、
原沢くんのことを好きなんだってこと。




『・・・うん。噂・・・聞いてたから』

『あいつ、からかわれるの嫌がってるから、
 みんなには知らせてないんだよね-。
 でも、意外と知られてるもんだねー』




夏帆ちゃんは、にこにこと笑う。



可愛らしい笑い方だと思った。



夏帆ちゃんのこの笑顔を、
原沢くんは好きになったんだなと思った。
夏休みの今日も、暑い中、
原沢くんは練習を頑張っている。


聞くと、最近あった県大会で、
強豪校の3年生を倒し、5位に入ったと。





私は、相変わらず、誰にも言わずに、
彼を見つめるだけの日々だ。



校舎の4階にある美術室の窓から、
テニスコートはよく見える。






そして、今日も・・・






「こーぉきーーーぃ!」

夏帆ちゃんが差し入れをしている。

お弁当かな。



近頃は、立原さんも吉野くんに
ジュースを持ってきたりしている。

賢太、って呼んでるから、
そろそろ付き合ったりとかするかもね。




・・・いいな。

少し淋しくなりながらも、私は鉛筆を走らせる。

スケッチブックには、
もうたくさんのテニスコートの風景。


夏休みに入ってから、描きはじめた、
ボールを追って駆け回るあの人の姿。







誰も知らないだろう。
誰も気づかないだろう。


私の気持ちなんて。


・・・知られなくていい。
気づかれなくていい。
このままでいい。









自分の気持ちに区切りをつけるため、
私は一つの絵を描いた。



夏帆ちゃんと原沢くんの似顔絵。




夏帆ちゃんの誕生日はそろそろだから、
そのときに渡そうかな、と思っている。










・・・もう、きっと大丈夫。
叶うだけが恋じゃない。






想うだけでも、きっと恋だ。
大切な、恋だ。





言い聞かせて、私は今日も、描いていく。
永遠に、誰にも知られない想いを。




☆End☆

心臓の音が、誰かに聞こえないか。


わけもなく不安になる。








今日は、放送部の大仕事。

番組制作の日だ。


この番組は、秋の文化祭で放映される。


毎年みんな力を入れている番組制作。



これは、放送部をいい意味で
「すごい」と言わせしめる唯一の武器。


今、あたしが立っているのは、
体育館の入り口。


体育館では、男子バスケ部が練習中だ。


男バスは、今年の高体連で、
見事に、全国大会出場を果たした。


地元のテレビ局でも報道されている。


2回戦で敗退しているが、
なかなか見応えのある試合だったと。






そこに目をつけたのが、ウチの放送部の
三峰 夏帆&立原 すももだ。


『今年の番組は、全国大会出場の
 男バスのドキュメンタリーにしよう』

『男バスは、人気もあるし』

『絶対盛り上がるよ』




その熱意に押され、放送部のみんなも承諾。

で、あたしは、この体育館で、男バス相手に
インタビューをするはめになったってワケ。