かったるい夏休み。
私、三峰夏帆(ミツミネカホ)は、空を見上げた。
真っ青な空。
夏、って感じだ。
高校2年生の夏。
16歳の夏。
青春だねー、と独り言を言ってみる。
友達とも遊び、部活も楽しむ。
ついでに言うなら、成績も問題なし。
これぞ誰もがうらやむ高2ライフ!
……と言いつつ、
実は、秘かな悩み事もあるんだ。
ウチの弱小放送部は、あいかわらず、
今年の夏の大会も成果なし!
アナウンス部門も、朗読部門も。
つまり、先輩を見送った卒部会の後には、部活動もゼロ!
いぇーい!
……なんつってね。
ま、面倒くさがりな私にとっては、
楽っちゃ楽だけどー……
やっぱりちょっと淋しいかな。
さてさて……
そういう面倒くさがりな私。
その私が、この暑い中、出歩く。
しかも、せっせと自転車をこいで。
これには理由がある。
ちゃーんとした理由。
えへへ……じ・つ・は!
彼氏の応援だ。
私の彼氏は、
原沢功毅(ハラサワコウキ)っていう。
1年生の頃からずっと片想いしてて、
勇気を出して、私から告白した。
付き合い始めたのは6月はじめ。
今が7月下旬だから……
もう1ヶ月半以上のつきあいだ。
功毅は、ソフトテニス部なんだけど、
部内では、文句なしに一番うまい。
で、冬咲高校の男テニは、かなりハイレベル。
県大会とか、バンバン行っちゃってる。
その冬咲で一番うまいんだから、
功毅は本当に強いんだろうな、と思う。
し・か・も、イケメン!
ほんと、格好いいんだ!
……私にとっては、ね。
みんなには、
おかしいっていわれるけど。
でも、私は、好きなんだ。
功毅の下がった目尻とか。
力の抜けた走り方とか。
けっこう嫌いじゃなかったりする。
今日は、男子ソフトテニス部の県大会。
男テニ部内では、なんと、
功毅たちだけが勝ち上がってる。
うちの彼氏、なかなかやるじゃん?
私のクラスメイトの吉野賢太(ヨシノケンタ)は、
功毅とダブルスでペアを組んでる。
ちなみに、功毅が前衛。
賢太が後衛だ。
賢太もけっこう強いんだよね。
……すっごくシャイなのが玉にキズだけど。
でも、さっすがだよね。
やっぱ、格好いいわ、功毅!
とか、なんとかのろけてみたり。
会場では、大親友の立原すもも(タチハラスモモ)が待っていた。
超絶美人だけど、気取らなくていい子。
私は、すぅ、って呼んでる。
すぅは、賢太と仲がいいんだよね。
「夏帆ー、遅いよー」
「ごっめーん!」
「もー、功毅クン、超待ってたよー」
「え、ウソ!マジで!?」
私はあわてて周りを見回す。
冬咲高校テニス部のユニフォーム……
えーっと、あの、無駄に赤いヤツ。
赤いの、着た人……着た人………
「あ!」
いた!
やる気のなさそうな背中!
間違いなく功毅だ!
「こーうきぃーー!」
急に名前を呼ばれてびびったのか、
功毅の背中がびくっと揺れた。
そういう反応もかわいいんだよなぁ……
って、私アホすぎるか。
迷わず走り寄る。
「やっほー、功毅っ!」
「お、おぅ……」
「これから試合?」
「あぁ、うん。夏川高校の3年と」
「夏川……って、強豪じゃん!大丈夫!?」
功毅が口にしたのは、手強い高校の名前。
功毅の試合するところ見てたりすると、
自然と目に入ってきたから、分かる。
……功毅、そんな強いとこと戦うんだ。
自分が試合に出るわけでもないのに、
びっくりする私。
そんな私を見て、
功毅は、おかしそうに笑った。
「平気だって。心配すんな」
功毅は、私の頭を軽くぽんぽんと叩く。
はぅ……!
不意打ち過ぎるよぉ……
その手つきが、何だか不器用で。
でも、優しくて。
私は、もう何も言えなくなる。
「がんばってくるからさ」
「うん」
「見ててくれよな」
そう言って、功毅は駆けていく。
その先には、テニスコート。
信じてるよ。
あんたの全力、私信じてるから。
後姿を見送りながら、
ぎゅっとなる胸のうずきを押さえた。
☆End☆