「1つしかない・・・っていう逃げ場のなさが好き」
言い終えて、ふと気づく。
何言ってんだろう・・・あたし。
「ごめん!何か、変なこと言っちゃったね・・・」
「いや、俺もだし」
「え・・・」
「俺、サッカーやってるだろ。
それはやっぱり、1つのゴールを狙っていくっていう潔さが好きだからなんだ。
・・・森瀬と同じだよ」
同じ・・・気持ち?
古田と、あたしが・・・?
古田が急に立ち止まった。
そして、あたしの目を見る。
黒目がちな古田の瞳があたしをとらえる。
「俺・・・、今、1つのことを狙ってる」
「も、森瀬も同じ気持ちだったら・・・
俺はすごく嬉しい」
「・・・うん」
心臓が飛び跳ねてる。
痛いくらい。
「俺がほしいのは・・・望んでるたった1つのものは」
そこで、古田が息を吸う。
すぅ、っと音がした。
「森瀬の気持ちだ」
狙うもの。
望むもの。
ほしいもの。
バスケに向きあうとき、それは勝利だった。
今・・・あたしがほしいもの・・・
あたしが・・・望んでるもの・・・
「古田だ」
涙がこぼれそうになりながら、あたしは言った。
「え・・・」
「古田だよぉ・・・あたしが、今ほしいのは・・・古田だぁ・・・」
どうしてだろう。
嬉しいのに、涙が出そうなんだ。
「森・・・瀬・・・」
「好きだよぉ、古田のこと・・・」
「・・・うん。俺も」
これからも、狙うゴールはただ1つ。
望むのは君だけ。
大好きな君だけ。
だから今日も、君の瞳に狙いを定めて。
☆End☆
私は、堀内 七瀬。
冬咲高校2年・美術部員だ。
現在、クラスメイトに片想い中。
その相手っていうのは・・・
テニス部の原沢くん。
2年生で初めて同じクラスになって、
仲良くなった。
4月のはじめは、出席番号順の席で、
「は」と「ほ」で、近くの席になった。
『ほりうちさん・・・?』
『あ・・・うん!』
『俺、原沢。原沢 功毅。よろしく』
クールな雰囲気なのに、笑顔が素敵で。
そのぎこちない笑い方に、一目惚れした。
でも、今年の5月末のある日、
私の恋は、静かに終わりを告げた。
美術部の友達から、聞いた1つの噂。
『1組の原沢くんって、
三峰さんのこと好きらしいよ』
思わず、キャンバスに向かう手が止まった。
頭の中が真っ白になった。
三峰 夏帆ちゃんは、私の幼馴染み。
明るい笑顔をした、闊達な子だ。
家が近くて、小学校の時は仲良しだった。
中学校は違っていて、放送部に入ったと
噂で聞いたくらいだった。
高校に入ってからは、接点もなくて、
お互いあまり話をしてなかったけど・・・
ちょっとショックだった。