「じゃ、じゃあさ」
「ん?」
「夏帆と一緒にFBCタイムで放送するよ」
「三峰と?」
「功毅クン、喜ぶと思うし」
「あー、それ、いいな」
「でしょ?」
「あいつ、あんなクールな顔して、
けっこう三峰大好きだもんな」
賢太がまたにやっとする。
「それじゃ、まあ、頑張ってきますか」
「うん。夏帆と一緒に応援してる」
「さんきゅ」
賢太は、しゅんっとラケットを一振りし、
テニスコートに向かっていく。
この瞬間の格好よさ、
絶対に全校放送してやるんだから。
ちょっと胸に秘めておきたい気もするけど、ね。
あたしの放送部員としての意地が、
ぎゅっとうずいた気がした。
☆End☆
「もぉー、
ウチらの休憩場所まで侵攻しないでよぉー」
あたし、森瀬 玲は、サッカー部たちに
必死で抗議する。
だけど、あたしのコトバなんか無視して、
ヤツらは水飲み場でだらけている。
「だりーなー」
「何でこんな暑いんだよ……」
「あ、森瀬、売店で炭酸買ってきてくれよー」
「いいねー」
「森瀬、早くー」
こいつらサッカー部は、
この夏、県大会出場という結果を出した。
3年生の先輩が引退した今、
ちょっと調子に乗りすぎな感じ。
くぅ……ムカつくぅ……
あたしの所属する女子バスケ部は、
市大会4位。
……微妙な感じだ。
「ったく……
みんな、他の部活のヤツをパシるなよ」
突然、あたしの背中の方から、
ふわっと甘いテノールの声がした。
誰だか分かる。
もう……分かってる。
ーーーサッカー部の古田昌志(フルタマサシ)だ。
「お、じゃあ、マサが行くのかぁ?」
「えー?そーゆー意味じゃねーけどさー」
古田とは、
1年生の時同じクラスだった。
男子からも女子からも好かれてて、
いつもいじられ役の優しいヤツ。
サッカー部のメンバーからは、
“マサ”の愛称で呼ばれている。
頭はあまりよくないけど、
顔は小動物系でかわいいんだよね。
「ごめんな、森瀬」
唐突に謝られ、戸惑った。
「え、いや、いいよ、別に」
「わりぃな」
「気にしてないよ、ほんと」
「でも、大丈夫か?」
古田は、ちょっと眉を下げて、
ふいに、あたしの目をのぞき込んだ。
「最近ずっとだろ……?」
“最近ずっと……”
かぁっと、頬が熱くなる。
え、何気づかれてんの?
最近ずっと、あたし、古田のこと……
って、違う!
違う!
違う……はずなんだけどっ!
「ぜ、ぜんっぜん平気だからっ!いや、むしろ、あたしこれからジュース買いに行くところだったからっ!」
古田から顔をそむける。
あぁぁー、もう、
絶対おかしいって思われた……
「サ、サッカー部のヤツらのも買ってくるねっ!」
「え、いや、俺行くよ?」
「や、ほんと、後でお金払ってくれたらいいからっ!」
「12人分は重いだろ。俺も行く」
そう言って、古田はすたすた歩き出した。
並んで歩いてると、思い知らされる。
いかにもサッカー部、
って感じのしっかりした体つき。
去年より男っぽくなったな、って思う。
ムカつくサッカー部を眺めていて、
分かったことがある。
試合の時の昌志は、めちゃくちゃ全力だ。
いつもの笑顔とは別人みたいに、
ぎらついた顔でボールを追ってる。
そういうとこなんだよね、きっと。
みんなから慕われてる理由って。
「森瀬はさぁ」
急に頭の上から落ちてきた古田の声。
胸が、何だか変な感じに苦しくなった。
「な・・・に?」
「いや、森瀬はどうして、バスケ部に入ったのかなぁ、って思って」
「・・・・・。」
どうしてそんなこと・・・
でも、古田のコトバに応えたくて、必死に言葉を探す。
「バスケって、目指すところが1つでしょ?」
「目指す・・・ところ?」
「うん。バスケットは、ゴールが1つなの。
仲間と一緒に、1つのゴールを狙って
シュートを決めるゲーム。
・・・あたしは、そういうところが好きなの」
もしかしたら、『何か部活がしたくて』とか
『体を動かすのが好きだから』とか、
そういう答えもアリなのかもしれない。
でも、古田には、ほんとのことを言いたかった。
「1つしかない・・・っていう逃げ場のなさが好き」
言い終えて、ふと気づく。
何言ってんだろう・・・あたし。
「ごめん!何か、変なこと言っちゃったね・・・」
「いや、俺もだし」
「え・・・」
「俺、サッカーやってるだろ。
それはやっぱり、1つのゴールを狙っていくっていう潔さが好きだからなんだ。
・・・森瀬と同じだよ」
同じ・・・気持ち?
古田と、あたしが・・・?