けろっとした花に困り顔な原沢くんを
よく見てみた。
きりっとした眉。
下がり気味で切れ長の目。
精悍さのにじむ鼻梁。
細い輪郭線。
へぇ、と思った。
けっこう端整な顔立ちだ。
はっと目が合った。
どくん、と胸が音を立てる。
体温が上がった気がした。
酸素が薄くなった気さえ。
・・・綺麗な目をしていた。
「ありがとー、原沢ー」
「はいはい」
「マジで助かった!」
「毎度のことで・・・」
「何か言った?」
「いーえ、何でも!」
少しばかり気弱そうな原沢くんは、
口元をゆがめた。
打ち解けた様子から感じられた通り
花とは同じ中学校だという。
ちょっと面白くなって、訊いてみる。
「こーゆーの、慣れてるの?」
「え?」
「花に教科書貸すのとか」
「田川のおっちょこちょいは前からだし」
「あ、原沢ひどーい!」
花がふくれっ面になった。
原沢くんはそれを見て笑っている。
ユーモラスなところも楽しげだ。
ちょっと陰気そうだけどね。
・・・原沢くん、か。
・・・ずっと前から思っていた。
髪、伸ばそうかなって。
昔は、けっこう髪は長かった。
肩を隠すくらいのロングヘア。
でも、中学で、ばっさりと髪を切って。
それ以来、あたしの髪は伸びたことがない。
ずっと前から決めてたこともある。
『好きな人が出来たら髪を伸ばす』
その人を好きな間、ずっと。
好きな時間の分、髪は長くなる。
誰かのことを好きになって。
髪を伸ばして。
・・・そして長い髪の自分のことも
いつか好きになりたい。
だから・・・
「・・・髪、伸ばそっかな」
小さくつぶやいてみる。
「花、行こ!授業始まるよ」
「あっ、ほんとだ!」
「急がないと先生に怒られちゃうよ」
「うん!あ!ありがとね、原沢!」
「おぅ、ちゃんと返せよ」
「分かってるって!」
・・・頬をなでる風。
この風の温度が変わる頃には、
あたしの短い髪も伸びているかな。
あたしの恋はまだ始まったばかり。
☆End☆
次の授業は・・・古典か。
苦手だな。
俺、原沢 功毅は、ちょっとため息をつく。
高1。
男子ソフトテニス部所属。
成績現在伸び悩み中。
恋人なし。
いわゆる【平凡】の代名詞的男子高校生。
そんな俺のところに舞い降りてきた
ちょっと平凡じゃない1つのロマンス。
「はっらさっわーぁ、教科書貸してー!」
びくっとした。
あの声は・・・
振り向かなくたって分かる。
1年3組の田川 花だ。
中学生時代に同級生だった腐れ縁で、
今も何かと迷惑をかけられ・・・
違った。
田川曰く『頼りに』されている。
・・・はぁ。
教科書、ね。
えーっと・・・なんだって?
あ、数学?
数学、数学、っと・・・
数学、ね。
忘れ物厳しいからって借りに来るなよ。
先生も罪だな、ほんと。
偉いね、田川。
俺だったら諦めるよ。
少なくとも、中学時代の異性の同級生に
大声で叫んだりはしない。
うん。
一応注意しておこう。
俺の人生の目標は【目立たない】だから。
「田川、もうちょい静かに・・・」
「えー?何でー?」
差し出した教科書でひっぱたきたくなった。
たぁがぁわぁ~~~~(怒)
ふと田川の横にいる女子が目に入った。
目が合って。
視線が絡む。
・・・全ての音が止まった。
短めの髪。
快活そうな目。
闊達な笑みの浮かぶ口元。
全体的な雰囲気はやわらかいのに、
元気の良さそうな顔立ちだ。
美人じゃないのにそのアンバランスさが
すごく、綺麗に映った。
「ありがとー、原沢ー」
「はいはい」
「マジで助かった!」
「毎度のことで・・・」
「何か言った?」
「いーえ、何でも!」
何か、うまくしゃべれない。
どうしてだろ。
いつも以上に口下手になってる気がする。
「こーゆーの、慣れてるの?」