「3,2,1,アクション!」
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「県の強化選手に選ばれたそうですが」
三峰が声を変えて訊ねてきた。
「努力が認められるのは嬉しいです」
淡々と答えた。
誰が言ったんだ、これ。
「でも、辞退なさった」
三峰が切り込む。
「この学校でやるバスケが好きで。
それが僕にとってのバスケです」
冬咲高校入学を決めた時の信念。
【部活を最優先すること】。
他での練習量が増えれば、
当然、高校での部活動はおろそかになる。
それが怖かった。
「なるほど。
自分のバスケの形を追っていると」
全てを格好良くコトバで飾るのは、
三峰のクセのなのだろうか。
思わず苦笑してしまった。
「格好良く言えばそうなんですけどね。
部活に手を抜くと、軽蔑されますし」
「軽蔑。誰にでしょうか?」
ものの見事に食らいつかれた。
三峰は、やっぱり勘が鋭い。
原沢。
浮気はすぐバレるぞ。
覚悟を決めて、声にした。
「大切な人にです」
「大切な・・・人ですか?」
「あ、これ、放送されるんだっけ」
さらりととぼける。
天然気味の田川には分かんねえかも。
でも、これ、一応告白。
「まあ、カットするよ」
わかりがいいのが、三峰の長所。
原沢、いい彼女持ったな。
「じゃ、一瞬の幻と言うことで。
・・・俺には、好きなヤツがいる」
届け。
伝われ。
「そいつは、すっげえ頑張り屋だから、
俺が力抜いたら絶対軽蔑する」
そう・・・だろ?
なぁ、田川?
「俺ががんばれるのは、バスケだけだ
って知ってるから、あいつ」
届かないのかな。
伝わらないのかな。
叶わないのかな。
・・・この気持ちは。
俺、頑張るからさ。
超格好悪いけど、格好悪いなりに。
超ダメだけど、ダメななりに。
だからさ、いつか好きになってくれよ。
それまでは、バスケだけ追うから。
田川以外のヤツ、好きにならないから。
・・・な?
いつか。
きっと。
届いてくれよ。
☆End☆
ここまで読んでくださりありがとうございました。
作者の雪歩です。
実は、この「Club & Love」が私の初めての作品です。
周りにいるみんなの等身大の恋愛を描くことがとても楽しかったです。
ちなみに、
夏帆と功毅は、このあとのおまけでも主人公を務めてくれています。
花と誓志もちょびっと登場w
あ、誓志は、『Dear』で活躍してくれます!
ちょっと大人になった誓志に会えます(^^*)
短編集を書くのは好きです・・・(*・ω・)
では、また違う作品で(^_^)ノ
「やっば、どーしよ・・・」
前の席から悲鳴が上がった。
「どしたん、花?」
あたし、三峰 夏帆は、首をかしげる。
「数学の教科書忘れた・・・」
前の席に座る田川 花が、振り返った。
その顔は半泣きで歪んでいる。
「あっちゃー・・・」
「やばいやばい、どぉしよぉ・・・っ!」
高1の2学期にもなって、半泣きになる。
それも、教科書を忘れたくらいで。
普通に考えたら変な話だ。
でも、花がこんなにも慌てているのには、
ちゃーんと理由がある。
・・・数学の先生、怖いんだ。
「ねぇ、夏帆、どーしよーっ!?」
「・・・他のクラスから借りる」
「今日数学あるの、ウチと5組だけだよ」
「いいじゃん、5組から借りれば」
「今日、すもも休みだしっ!」
「・・・れ、伶桜ちゃんは」
「さっきケガして保健室っ!」
同じ放送部で5組と言えば、
すぅ(すもものコトね)と伶桜ちゃん。
その2人だけだ。
となると、まぁ・・・
「仕方ない、怒られなさい」
「夏帆~~~~ぉっ!」
「・・・5組に他に知り合いは?」
「いない~」
「・・・じゃあ、もう答え出てるじゃん」
「でも~」
あたしにすがられても、困るんだけど。
よしよし、泣きなさんなと
花のロングヘアをなでながら、眉を下げる。
いいな、ロング。
あたしはショートだから、うらやましい。
と、花が飛び起きた。
「思い出したっ!」
「な、何を・・・?」
「1人いたわ、知り合い!」
「そ、そう。おめでとう・・・」
「夏帆!付いてきて!」
「え~・・・」
「いいから早く!」
花に手を引っぱられる。
・・・思えば、それが全ての始まり。
廊下を通り、5組に到着。
わいわい騒がしいのは、どこも同じだ。
花は、5組の教室の中を見回す。
探し人は、いるのだろうか。
あたしものぞき込んでみる。
同じ中学だった子がちらほら。
やっぱり、クラスが離れると、
接点ってなくなっちゃうものだ。
懐かしい顔に再会し、
ちょっとだけ感傷的になる。
・・・ちょっとだけね。
「あ、いたいたっ!」
あ、いたの。
よかったよかった。
「はっらさっわーぁ、教科書貸してー!」
・・・え?
え、原沢?
そんな女子いたっけ?
え、まさか、男?
ってか、誰?
・・・花、聞いてないよ。
突然、花の声を聞いてから、
明らかに挙動不審な男子生徒が1人。
・・・あいつが原沢か。
後ろ姿だけで分かるほど、焦っている。
その背中は、大慌てでカバンをあさる。
かわいそうに。
花、感謝しなよ。
案の定、原沢くんはその人だった。
ちょっと気弱そうな雰囲気。
でも、そっと教科書を差し出した手は、
意外と日に焼けて精悍だった。
「田川、もうちょい静かに・・・」
「えー?何でー?」
何で、って・・・。
花・・・ってば。