The Story~恋スル君ヘ~

「誓志・・・」


田川が俺の名前を呼ぶ。

あ、くそ。
やべぇ。


そんな声で、呼ぶなよ、バカ。






・・・狂っちまいそうだ。







気を紛らわせようと、軽く笑った。


「よ、田川。何だ、三峰に立原もいるのか。
 悪りぃが、ここはテニス部じゃねえぞ」



三峰と立原は、苦笑しながら言葉を返す。



「今日は、放送部として来たのよ。
 功毅の恋人としてじゃないわ」

「それに、あたしにはテニス部の彼氏なんて
 いませーん」




【功毅の恋人】が板についてきた三峰と
まだまだ意地が邪魔をする立原。


対照的っちゃ対照的なんだけど、
どっちもいい表情でいい恋してる。





いいな。
うらやましい。





・・・こんな顔、田川にもさせたい。




「はいはい、分かりました。で、撮影?」

「う、うん。ちょっと練習風景撮らせて」



戸惑っているのか。
少し不安げな表情の田川。




ダメだな、俺。
こんな表情1つで崩されちまいそうになる。





「じゃ、まずは俺の美しすぎるダンクシュートから・・・」

「あ、アホ山は撮らなくていいから」

「おい!誓志ぃ・・・!」




せいぜい冷静気取ってやる。
だって、田川も俺に何も思わねぇんだもん。



「よっしゃ、お前ら!最高のバスケ、放送部に見せつけてやれ!」





しばらく普通の練習を続けた。
試合形式だったり、筋トレだったり。


その風景を田川たちは撮影していく。





「誓志ぃ、インタビュー」



突然声をかけられた。



岡山の声だ。



インタビュー?





「えー、俺ー?」

「お願い!放送部を救うと思って!」



立原に拝まれた。




いや、あの。

すいません、上目づかいは効きませんよ。
立原さん、それは吉野くん専用にしましょう。






「・・・仕方ないな」




上目づかいにほだされたわけじゃないが、
俺はOKすることにした。



「誰を見りゃいいんだ?」

「一応、最初はあたし。
 自然に目をそらしてもかまわないけど」


三峰が説明してくれた。
ほっとしてうなずく。




「分かった」



「3,2,1,アクション!」

        ・
        ・
        ・


「県の強化選手に選ばれたそうですが」


三峰が声を変えて訊ねてきた。


「努力が認められるのは嬉しいです」


淡々と答えた。
誰が言ったんだ、これ。




「でも、辞退なさった」



三峰が切り込む。




「この学校でやるバスケが好きで。
 それが僕にとってのバスケです」



冬咲高校入学を決めた時の信念。
【部活を最優先すること】。


他での練習量が増えれば、
当然、高校での部活動はおろそかになる。



それが怖かった。





「なるほど。
 自分のバスケの形を追っていると」



全てを格好良くコトバで飾るのは、
三峰のクセのなのだろうか。





思わず苦笑してしまった。




「格好良く言えばそうなんですけどね。
 部活に手を抜くと、軽蔑されますし」

「軽蔑。誰にでしょうか?」



ものの見事に食らいつかれた。


三峰は、やっぱり勘が鋭い。


原沢。
浮気はすぐバレるぞ。





覚悟を決めて、声にした。




「大切な人にです」











「大切な・・・人ですか?」

「あ、これ、放送されるんだっけ」



さらりととぼける。



天然気味の田川には分かんねえかも。
でも、これ、一応告白。


「まあ、カットするよ」



わかりがいいのが、三峰の長所。
原沢、いい彼女持ったな。



「じゃ、一瞬の幻と言うことで。
 ・・・俺には、好きなヤツがいる」


届け。
伝われ。


   
「そいつは、すっげえ頑張り屋だから、
 俺が力抜いたら絶対軽蔑する」




そう・・・だろ?
なぁ、田川?






   
「俺ががんばれるのは、バスケだけだ
 って知ってるから、あいつ」



届かないのかな。
伝わらないのかな。
叶わないのかな。




・・・この気持ちは。







俺、頑張るからさ。

超格好悪いけど、格好悪いなりに。
超ダメだけど、ダメななりに。




だからさ、いつか好きになってくれよ。





それまでは、バスケだけ追うから。
田川以外のヤツ、好きにならないから。






・・・な?
いつか。


きっと。
届いてくれよ。




☆End☆

ここまで読んでくださりありがとうございました。

作者の雪歩です。



実は、この「Club & Love」が私の初めての作品です。

周りにいるみんなの等身大の恋愛を描くことがとても楽しかったです。



ちなみに、

夏帆と功毅は、このあとのおまけでも主人公を務めてくれています。

花と誓志もちょびっと登場w



あ、誓志は、『Dear』で活躍してくれます!

ちょっと大人になった誓志に会えます(^^*)



短編集を書くのは好きです・・・(*・ω・)



では、また違う作品で(^_^)ノ
「やっば、どーしよ・・・」


前の席から悲鳴が上がった。


「どしたん、花?」


あたし、三峰 夏帆は、首をかしげる。


「数学の教科書忘れた・・・」


前の席に座る田川 花が、振り返った。
その顔は半泣きで歪んでいる。


「あっちゃー・・・」

「やばいやばい、どぉしよぉ・・・っ!」



高1の2学期にもなって、半泣きになる。
それも、教科書を忘れたくらいで。


普通に考えたら変な話だ。


でも、花がこんなにも慌てているのには、
ちゃーんと理由がある。










・・・数学の先生、怖いんだ。

「ねぇ、夏帆、どーしよーっ!?」

「・・・他のクラスから借りる」

「今日数学あるの、ウチと5組だけだよ」

「いいじゃん、5組から借りれば」

「今日、すもも休みだしっ!」

「・・・れ、伶桜ちゃんは」

「さっきケガして保健室っ!」




同じ放送部で5組と言えば、
すぅ(すもものコトね)と伶桜ちゃん。

その2人だけだ。



となると、まぁ・・・




「仕方ない、怒られなさい」

「夏帆~~~~ぉっ!」