The Story~恋スル君ヘ~

目に、細密な景色が飛び込んできた。




・・・それは、俺が見慣れた光景。






テニスコート。






美術室の窓から描いたのだろうか。
上から見る構図だった。



テニスコート。
その周りの木々。



そして、俺たち、テニス部員。




やわらかな木漏れ日。
風の揺らぎ。


そんなものまで細やかに表現できる、
絵という芸術のすさまじさ。






鉛筆で書いたらしく、モノクロだったが、
信じられないほど精緻な絵だった。





俺は、言葉を失った。





“感動”の色を知った気がした。







またページをめくる。



次は・・・










俺は息をのんだ。



そこにあるのは・・・





























俺の姿だった。
正確には、俺と夏帆。



俺の下がった目尻と、夏帆のくせっ毛を
大胆にデフォルメした似顔絵だった。






2人の似顔絵の上には、
『☆ HAPPY BIRTHDAY KAHO ☆』





そして、文章も添えられていた。





『夏帆ちゃん、17歳おめでとう!
 原沢くんと仲良くね!』








丁寧な、その字。











俺は、分かった。













この絵を描いたのが誰なのか。
・・・その人の気持ちさえ。
スケッチブックの表紙を見た。


『Nanase Horiuchi』


端正な筆記体の綴り。
間違いない。


やはり、俺の勘に狂いはなかった。




俺は、どうすればいいか迷って、
スケッチブックをそのまま机に置いた。




堀内さんは、きっとこれを夏帆に渡す。




何でも無いように。
まっさらな笑顔で。




強い人だから。

そんな強い人に、想われたこと。
そういう人に、恋われたこと。




俺は、けっこう誇りに思ってる。




だから、その人にふさわしくあるために、
俺は、夏帆を大切にする。




「1人の女も守れない男なのか」と
幻滅されたくないから。




誰に言っても理解してもらえないだろう。
こんな、情けない気持ち。


でも、情けなくてもいいから、
俺は俺でいたい。









だから。






美術室の窓からのぞく、“誰か”の
影にも振り向かない。




強く、あろうじゃないか。




夏帆だけを見つめる、強さ。
揺らがない、強さ。




きっと手に入れてみせるから。




背中越しに、誓う。



こんな情けない俺に、ダメな俺に、
深く想いを寄せてくれた君へ。








振り向かないままで悪いけど。




「功毅ぃ?何か考えごと?」


顔をのぞき込んでくる、夏帆。



心配、すんなよ。
マジで、大事にするから。


「何でもねぇよ」



夏帆の頭にぽんと手を置き、
軽くテニスラケットを一振りする。














今日も、暑い。




☆End☆




ふと、空気の色が変わった気がした。



体育館での練習。
いつもながらに暑い。




その空気が、ふっと色を変えた。






体育館の入り口には、一人の少女。
決まり悪そうに立っている。








・・・あいつ。
俺は、野上 誓志。
冬咲高校バスケ部の2年生だ。






そして、『あいつ』は・・・








放送部の田川 花。

同級生。
隣の席。

名前の通り、花みたいな笑い方をする。








ついでに言うなら、俺の恋のお相手。
去年の俺のクラスメイトに、
原沢 功毅っていうヤツがいた。



入学当時、出席番号が前後だった原沢は、
ちょっと内向的なテニス部員。


恋愛にも奥手で、無口。
いつだって憮然とした表情。




そんな原沢が、ごく親しくしていた
数少ない女子生徒。







それが田川 花だった。