「黒崎先生!!」

広い広い黒崎病院内をすたすたと迷わずに歩いていたら、

背後から最近聞きなれてきた声が海斗を呼び止める

ふと振り返ると、変化球と定着しつつある研修医・立花しるふが、

ぱたぱたと階段を駆け下りて、小走りに駆け寄ってくるところだった

「どうした」

「医局に戻ったら黒崎先生が整形外科に顔出すって言うから」

追いかけてきたんですよ

「そ」

再び歩きはじめる海斗の横に当たり前のようにしるふが並ぶ

その光景も黒崎病院に定着しつつある

面と向かって言われることはないが、しるふのことを「黒崎先生のお気に入り」と

他の科の従業員が呼んでいるのを海斗は知っている

否定も肯定もしていない

今は、まだ

「黒崎先生」

きっと本人は気が付いていないだろうが

呼ばれて視線を向けると見上げてくるブラウンの瞳は、海斗が黒崎病院跡取りだと知った後も

その無邪気さを変えない