校門を出て長い坂道を下りながら、一つ溜息を漏らす。

(今日も喋れなかったなぁ…)

また、彼女のことを思い出していた。
片想いの相手を想うように、暇さえあれば授業中でも彼女を盗み見ていた。
こんな自分をダメだと叱責しながら、気持ちは膨らんでいくばかりだった。
話をしてみたい、友達になりたい。
憧れのような、まるで恋のような気持ちに戸惑いながら、胸は高鳴るばかりで…。


駅のホームに着くと、電車が滑り込んできたので慌てて乗り込んだ。

いつもは一番前の車両に乗るのに、慌てていたので一番後ろに乗ってしまった。
学生であふれかえる車両の中をゆっくり、前の車両に移動していく。

やっと一番前の車両のドアに手を掛けた時、ガラスの向こうによく知った顔が見えた。
シートに座る奈々を見つけたのだ。

奈々の方に向かって真っすぐ歩いて行く。