席に向かうわずかな距離も、彼女を気にしながら歩く。
真っ直ぐ外に視線を向けた彼女が、こっちを見る訳なんてないのに…。

そう思いながら、彼女が視界から消えかけた時、茶色い後頭部が大きく動いた。
思わず視線をそちらに向けると、目が、合った。

目の上で切られた前髪、たまごの様につるんとした肌、薄い唇に、こぼれそうなほど大きな目―。
座席二列分開いた距離なのに、確信があった。

今、あの瞳に、確かに私が映っている。

ほんの一瞬、時間にすればきっと5秒もない。
なのに、彼女が突然こっちを向いた。

そして、私と目が合った瞬間、確かに彼女は大きな目をさらに見開いた。

それに気付いた途端に、私は目を逸らした。