「奈々ー」

その声に閉じていた目を開くと、“あの子”がゆっくり歩いてきた。
驚きで眠気が飛んで今度は目を見開いた。
呼ばれた奈々は手を上げると席を立ち、空いた場所に、あたしの隣に“あの子”を促した。

「奈々次の駅で下りるから、ゆめここ座んな。」
「ありがとう!」

ゆめと呼ばれた“あの子”は笑顔で隣に座る。
急激な展開に頭は着いて行かず、奈々と“あの子”の会話を聞きながら俯いていた。
程なくして電車は奈々の下りる駅に着き、手を振り合って奈々が下りて行くと何とも気まずさが自分を包んだ。

話しかける方がいいのか?

でも、朝の目を逸らされた仕草を思い出すと上手く言葉が出てこない。
焦りで掌にうっすら汗を感じた頃、“あの子”に柔らかな声で呼ばれた。