電車に乗り込むと一気に眠気が襲ってきた。
夏希が気を利かせて空いた座席に座らせてくれたので、いくらか気分はマシだった。

通り過ぎていく外の景色に桜が見える。
大好きだった淡いピンク色の花。
何度となくこの季節には、花見に出かけた。

速い速度で過ぎていく景色に意識を捕られていると、消え入りそうな声で次の駅名が聞こえた。
力の入らない足で無意識に立ち上がり、夏希に笑顔を向ける。

「私次の駅で下りるね。」

まだ私と夏希が下りるはずの駅には程遠い。
突然予想もしない事を言い出した私に、声を潜めながら眉間に皺を寄せた。

「そんな体調でどこ行く気よ!?」
「私の普段行ってる病院次の駅だから、寄って帰る。」

もちろんそんなのは真っ赤な嘘で、式が終われば真っ直ぐ帰れときつく言われている。
疑わしそうな夏希に笑顔を崩さずにいると、夏希も表情を崩してしぶしぶ頷いてくれた。