夏希に腕を引かれながら、おぼつかない足取りで歩く。
電車に乗り込むと普段なら心地よい揺れがより一層吐き気を誘い、それを誤魔化す為に夏希に話しかけた。

「ごめんね、夏希。」
「そんなんいいけど、このタイミングで風邪なんてねぇ。
お腹出して寝てたんじゃないのー?」

名前の通りの夏の太陽のようににかっと笑う夏希に、曖昧な笑顔を返すとやっぱり口を閉ざした。

昨日の出来事を、まだ夏希には話していない。
いや、誰にも話していない。

今は思い出すのも、言葉にするのもまだ辛いから。