傍らに置いてある携帯を掴むと、内臓のデジタル時計が8時1分を知らせる文字を映していた。
のそのそと起き上がり、リビングにおりて行く。
そこには、姿見の前で服を着る母の姿。

今年で40歳になる母は、欲目を抜きにしても若くて美人と評判だ。
こちらに気付くと、ぱっと顔を輝かせて声を掛けてきた。

「暁、おはよう。早く着替えなさないよ?初日から遅刻するつもり?」

姿見に視線を戻しながら始終嬉しそうに話している。

そう、今日は高校の入学式。
自分にとっては普段となんら変わりのない日。
元々自分で望んで行く場所でもない。
『公立』とつけば何処でも良かった。
本当に形だけの進学。
それでも、嬉しそうな母親の顔を見れば、少しは意味もあったかと思えてくる。