家に着くと、さっさと服を着替えてカメラを片手に家を出た。
一眼レフのかなりの旧式だが母さんが渡してくれた物で、父さんが生前に使っていたらしい。

母さんは何も言わずに応援してくれているけど、カメラを見るのは辛いことを知っている。

父さんは写真を撮っている時に亡くなった。
手から滑り落ちたカメラを受け止めようと気を取られている間に、近付いていた車に気付かず事故で死んだ。
完全に相手の脇見運転で、即死だった。

母さんにとっては悲しい思い出と分かっていても、諦めることは出来なかった。
まだ幼かった自分に記憶はないけれど、写真の中の父さんはいつも幸せそうに笑ってカメラを首から下げている。
心のどこかで、それを羨ましく思っていた。