「──あたし実家に帰るのやめようかな」
「せっかくここまで来たのに?」
「だって貴広と一緒にいたいもん」
実家より彼氏を取る。なんて親不幸な娘なんだろう。
お父さんが聞いたらさぞかしがっかりするだろう。
「そりゃあ、オレだってもえと一緒にいたいよ。でも。もえには家族や地元の友達との時間も大切にして欲しい」
「分かった。そうする」
「来年は2人で過ごそう、な? かなり気の早い話だけど」
「うん」
「もえ、敬語も抜けたな。些細なことだけど嬉しいな」
言われてみればそうだ。敬語も自然と抜けていた。
これは貴広に少しだけ慣れた証拠だよね?
「──じゃあそろそろ行くね」
「あぁ」
車から降りる前にもう一度だけ、貴広の唇に触れるだけのキスをしていた。
──どれだけキスをすれば気が済むんだろう…と、我ながら呆れた。