唇を離した竜くんが口を開いた。


「どうしたんだよ? そんな驚いた顔して」

「……」

「帰り際にキスするのはいつものことだろ? 今日は人がいるから長く出来ないけど」

「やめて!」


大野さんの前で生々しいこと言わないで。

性癖をバラされたような恥ずかしさが込み上げてくる。

「竜くん今日は──」

「じゃあまたな」

あたしの言葉を遮って竜くんが言った。

帰ってくれることにすごくホッとしたのに、
竜くんがあたしを見る瞳は淋しそうだったのが少し引っかかった。

そして背を向け、竜くんは大野さんを睨み付けてから玄関のドアを開け出て行った。

バタンとたドアが閉まる音だけがやけに大きく響いた。


大野さんと2人っきり。ものすごく気まずい。

顔を直視出来ないでいると──。


「荷物取っておいで」


大野さんがいつもと変わらない落ち着いた口調で言った。