「もえはワガママ言わないから楽な女──そう思ってたんでしょう?」

言葉を続ける。

「今日はご機嫌取りに来たんだよね? 摘み食いする女がいなくなったら困るからでしょう?」

言い終わった途端、涙が溢れてきた。


「もえ…」

竜くんがあたしの手首を掴もうとしたけど、払いのけた。

「触らないで! もう帰ってよ…」

ううっ。悲しいやら情けないやら。

「もえ、オレの話も聞いてくれよ」

「聞きたくない!」

どのみち彼女と別れる気は竜くんはないんだから…。


それから、あたしも竜くんも口を開かなかった。

こんな状況は初めてだった。


そして沈黙を破ったのは、インターホンの音だった。

大野さんだ! 今度こそ間違いない。


「出ないのか?」

「……」

「オレが出てやるよ」


そう言って、竜くんは勝手にドアを開けた。