「はい。だから歩いて帰りますから」

「何かオレすげー拒否られてる気分」


そう言って、大野さんは苦笑いを浮かべた。


「いや。そんなことないですから」

「分かってるよ。でもせめて顔くらい洗っていけよ」

「顔ですか?」

「あぁ。唇のところクリームついてるよ」

「えぇっ!?」


あたしは慌てて洗面所へ向かった。

鏡で見ると、昨日食べたケーキの生クリームがついていた。

さぞかしあたしの寝顔はマヌケだったことだろう。


顔をキレイに洗い終えて部屋に戻り、ソファーの脇に置かれていたバッグを手に取る。

そして、大野さんがあたしを見てこう言った。


「──水谷って可愛いな」


って…。

ドスンとバッグを落としてしまった。

可愛い? あたしが?

大野さんが突然おかしな発言するから、動揺してしまった。