「……い…」


いけません、と、言えなかった。


由紀が自分のマンションに来たことは、ただの一度もなく。

それはもちろん、女性としてのたしなみや、世間体を慮った、当たり前のこと。


付き人でしかない自分が、良からぬ目を向けられないように、と、由紀の気遣いも、そこにはある。




「私、やっぱり章介さんが好きです」




それが。
こんな時間に、ひとりで。




「…誰にも、言いませんから」




一体、どれだけの覚悟で、夜道をひとりで歩いたのか。

眠れない、と鬱々と酒を呑むだけの、自分の元へ。





「…ですが…あなたは……」


彼女が学生の頃から、付いて見て来たのだ。
彼女の交友は、熟知している。




「…初めては章介さんに、と決めてましたから」



怖くない訳はないだろうに、はっきりと言わせてしまった自分の不甲斐なさに、眩暈がした。