『……章介さん』

「…どうなさったんですか、こんな時間に……」



その夜の由紀は、化粧もせずに。
いつものように章介を呼び出すのではなく、自らの足で、章介のマンションを訪れた。

日付の変わったばかりの頃、に。




『上がって構いませんか?』

「……は…、いえ、今そちらに参りますから」


エントランスに立つ由紀の声を聞きながら、章介は慌てて髪を撫でつけた。



『………いいえ、上がります』

「………………」



有無を言わさぬ口調に。

章介の指は、渋々、というよりも恐る恐る。

ロックを解除、した。




上がって、来る?
彼女が?


章介の目の前が、ぐらぐらと。

逃げ出したいような激しい恐怖の波に、歪んだ気が、した。