「……解らない、こと…?」


ぴくり、と由紀の手が強張る。

凍りついた空気に、章介の手にも緊張が伝わった。


絶句したまま俯いた由紀を、苦しげに見つめたまま、章介は。

ぽたぽたっと、乾いたアスファルトに水滴が落ちたのを、見た。





「………わかりました」

うちに、帰ります。
車を出してください。



「…はい」

「今まで……守ってくださってありがとうございました」

もう、結構です。




「…由紀さん………」


「どうか!…どうか、これからは、…ご自由に生きてくださいませ」

私に構う必要は、ありません。




そっと手を引き抜いて。
震える唇を噛み締めた由紀は、そのまま。

二度と目を合わせようとは、しないまま。


章介の運転する後部座席で、きりりと背筋を伸ばして。


何に対しても反応しなく、なった。