「今日は会いに行く勇気がなくて俺を巻き込んだのか」
突然かかってきた弟からの電話を、実は無視しようとした。
腹が減ったと、何か食わせろと他愛もない会話をする、いつもの流れだろうと思ったから。
現にそうだったわけだが。
電話に出ろと睨む雅に押されて、渋々出たのが、そもそもの間違い。
出かけて来ると言えば、にこりと微笑んで、いってらっしゃい、と。アザラシを抱いた。
…あのアザラシはいい加減、雅の部屋に連れて帰ればいい気がする。
「だって急に寂しくなっちゃったんだから仕方ないだろー」
無邪気で、二十歳を過ぎてもガキっぽい弟は、最後の一滴までをグラスに注ぎ分けると、初めて愉しむように、ゆっくり口に含んだ。