ざ、ざ、と。

思いのほか思い切り良く、レザーが滑る。



「…切りすぎんなって」

「大丈夫だョ。可愛いから」

「…………」



私の希望なんか、訊かれていない。
そもそも、切りたいなんて、思ってなかったのに。


ギタリストの手つきは滑らかで。

指先は、少し平たくて。

哲の爪は、女の子みたいな綺麗な形だけれども、彼の爪は、少し四角い。


ざ、ざ、と。
私の視線は、彼の指先を追う。




「前髪、少し切るョ?」


「うん」

「あ、やっと従順になった」

そうそう。
そうやって、全て俺に委ねてれば、悪いようにはしないから。




「………この人なんかやだ」

「…馬鹿なんだ……聞き流してやって」



反論もしないまま、ギタリストは私の正面に無理矢理回り込んで。

しゃがみこんだ膝の間に、私を閉じこめるような姿勢で、額に指を掠める。