俺の知っている、佐伯哲也という男。

イギリスから戻って来た俺が、数年遅れて入った大学に、ストレートで入学を決めてきた、年下のヤツ。



俺は家業があったから。

就職に困ることはまずない上での、いわば遊ぶために入ったようなもの。


一応出た入学式で。

黒く染めたのか、所々に赤い毛筋の混じったこいつが、最近日本で流行ったらしいバンドをやっていることは、一目瞭然だった。







「哲、また佳代子来てるけど」

「………ああ、そう」




楽器は? と、いきなり訊いた俺に、同じ匂いを感じたのか、コイツは微かに表情を和らげて。

世に溢れる、声ひとつの役たたず、と。

卑屈なふうでもなく。




こんなふうに、ライブハウスで一緒に演るようになるまでに、さほどの時間は、かからなかった。