「……いえ、ここで」



ブラインドの隙間から。
窓の向こう。

更に、ガラスの内側へ。

食い入るように、視線を外さない。






「何故、捨てた」



不意に訊いた凱司の声に、男は初めて、向き直った。




「………あの時は…あまりにも…つらすぎて」


「アレから逃げたのか」

「…そう、なります」



「………アレが、どんな思いで過ごしてきたか、わかんねぇ訳ねぇよな?」

「………………」




男は、おとなしく。

膨らんだ封筒を、差し出した。




「500万、あります」


あの子の名で、貯めてきたものです。
生活費は、今まで通り振り込みます。

僕にはもう…それくらいしかしてやる資格はないので…と。



男は再び、窓の外へ、目を向けた。