「…もう少し安いのが……」

「誕生日なのに?」


「でも…あんまり高いと気になって……喜べない…んです」

「……喜べないのは困るな…」





そんな会話は、ここまでは到底聞こえない。

困ったような、雅の表情と。
困ったような、鷹野の顔。

どちらもが穏やかで、甘いだろう事が見える気がする、だけ。




なかなか決まらないらしい2人を、視線の先に留めたまま、凱司は。

苛つくでもなく、コーヒーカップに口を付けた。




「もう少し、そばに行かれますか?」


宇田川が声をかけたのは、凱司の向かいに座って、窓の向こうを凝視していた、男。


細く長めの黒髪を、襟足で結んだ、どことなく鷹野に似たような、中年の優男。