もごもごと、何もしていない、と訴える、男は。

完全に、八つ当たり混じりの苛立ちを爆発させた凱司の剣幕に呑まれ、為すすべもなく、トイレの奥へと、引きずられる。



「そこにいろ」


じろりと、今日、何度目かのきつい視線に、雅もまた呑まれたように、頷いた。




小さな悲鳴と、ドアにぶつかる、音。

水の流れる、音。



雅は、ぎゅ、と目を閉じて、凱司の出て来るまでのほんの十数秒を、待った。






「行くぞ」

「…………」


「早くしろ、逃げるぞ」

「…え?」



短気にも再び苛ついたのか、ひょいと雅を抱え上げた凱司は。

またどこかですぐ休ませてやるから、と抱え上げたその耳元で、呟いた。