蜜さんはきっと、隣の部屋の彼のことで忙しいだろうから、と。

無理しないでね、なんて決まりきったようなメールを、した、きり。


行ってあげたい気はあるけれど、きっと…蜜さんの事だから、余計気を使うかと思って、行かなかった。






「高崎さん?」



「……あぁ」


土曜日に、練習に来た高崎さんは、ひどく、ひどく消沈していて。

これから合奏なのに、基礎練習すら、まともにしていなかったみたいだった。





「…どうしたんですか?」

「……ぃや…何でも…ないよ」



明らかに、無理に笑った高崎さんは、ふと視線を上げて。


蜜は、何か言ってた? と。


小さく、訊いた。





「いえ…」


今日は来ないと思っていたから。
別に、来ない事に対する心配は、していなかった…から。


私は、蜜さんが似合う似合うといつも笑う、高崎さんの眼鏡を、怪訝な思いで、見つめた。