記憶の、上書きをしよう。


忘れられる事ではないだろうけれど、その傷が、血を流さないように。



凱司がいて、宇田川家がいて。

俺が、いる。



重なる唇は、花火大会の夜の、最新の、記憶。






「公衆の面前で堂々と痴漢するのはやめてください!」


噛みつかんばかりに引き剥がそうとする友典も。

あらあら、おやおや、と笑う宇田川夫妻も。



「雅、花火見えなきゃ肩車してやろうか?」


唇の端を上げて、微かに笑う、頭ひとつ分もふたつ分も背の高い、凱司も。


花火の音に、目立って取り乱さなかった雅に、ほっと息をついた。




毎年、更新しよう。
花火の下で、キスをしよう。



互いの浴衣が、似合わなくなる時が、来ても。




~終わり~