こんなに困り果てた凱司は、見たことがない、と宇田川は目を見張るけれど。


笠島の本宅まで、とにかく急いで来いと言われて迎えに行けば、居るはずのない雅が居たのだ。
彼女に、何かあったのだろう、という事くらいしか判らなくて。


とにかく泣き続ける雅と、珍しくなだめ続けている凱司。

宇田川は、器用に結ばれたさくらんぼの軸と、種。

くしゃくしゃになったバスタオルを拾い上げてから。




ついに凱司が、身を屈めて。

雅の目許を親指で拭い、次いで唇をも拭ったことに、思わず視線を逸らした。