子供心にも、何か異常なことが起きているんだ、と、わかってはいたけれど。




「可哀想だとは思うけど…」

「母親が死んだのに、泣きもしないなんて」

「うちは、自分の子たちで精一杯だから」

「失踪するなんて、ろくでもない父親だ」



「施設に預けたら?」

「遺産もないんでしょう?」





綺麗な白いユリの前で、黒い服の大人が、自分をちらりちらりと見ながら、怖い顔をしていたから。



誰に、おなかが空いた、と言えば食べるものが貰えるのかわからなくて。


雅はおとなしく、泣かずに。


それでも体験したことの無い、心細さに。

赤ちゃんのする事よ、と、やんわりとたしなめられていた、指しゃぶり。


人差し指の関節を、無意識に、吸った。