ざわり、と。
空気がどよめいた。


何を見たのか、雅はびくりと動きを止めると、いきなり立ち上がった。

レモネードの紙コップをテーブルに置いて、脱兎のごとく、走り出す。


…友典を置いて。





「……走るな…と……ああ…」

短い優越感だった。



きゅ、と廊下の角に消えてしまった雅を追おうと立ち上がり、何を見たのかと、振り返った友典は。







自身の父と。

おおよそ、学祭には似つかわしくない、ホスト臭を漂わせる男。
そして、その2人を引き連れているように見える、金色の髪を。

見た。




「……………」




ない、と思う。


父が学祭に来ることも“ない”し、ましてや凱司が来るなんて。

鷹野一樹まで居るじゃないか。



雅の“内緒”も、たかが知れている、と。

どこに逃げようと言うのか、ものすごい勢いで消えた雅に、苦笑した。