誰だったかなぁ、と。

考える力も残っていなかった私は、とりあえず彼に謝った。

それに答えることもなく、彼は私に傘を差し出した。

そして、ノートかなにかの切れ端に、胸ポケットから取り出したペンで何かを書き出し、それを私の手に握らせた。


「じゃあ」


彼は肩から下げていた高校のカバンから黒い折り畳み傘を取り出して差し、去って行った。


彼に不似合いな、彼の水色の傘を差して、私は立ち尽くしていた。

手の中には四つに折られた髪があった。