「そして、私がいなくなったときは……私がここにいたという事実を、消してほしいんです。全ての記録から、私の存在を消して下さい。
………もちろん、太陽たちの中にある私のことも」
「それは……君が死んだと伝えてほしいということかな」
「なんでもいいんです。死んだでも行方不明でも、私の存在を諦めてくれれば……そうすれば、太陽たちには危害は及ばないはずです」
そうか……彼女は、太陽たちのために……
「どうか、お願いします……」
頭を下げた彼女は、しっかりと自分の意思を持っている、あのときとは違う女の子だった。
「何かBCMや私に関することで困ったことがあれば、学校の理事長を頼って下さい。きっと冬麻さんの力になってくれると思います」
ふわり、と柔らかな笑顔を浮かべて満月ちゃんは立ち上がった。
そのまま自然な動作で扉の前まで移動する。
「話を聞いて下さって、ありがとうございました。……おやすみなさい」
ぺこり、と頭を下げて彼女は部屋を出た。
「はぁ………」
今日は、一度にいろいろなことが起こり過ぎたな。
さて……満月ちゃんの言った通り、遠くない未来に彼女はここから姿を消すだろう。
BCMから何年間も見つからずに過ごしている今の状態こそが奇跡に近い。
「さすがは、"silver cat"と言うところか……」
全てを知ったとき、太陽はどんな反応をするのだろうか。
そのときの反応次第では……
いや、今は未来の可能性の話よりも自身にできることをするとしよう。
テーブルに置いたままの書類に手を伸ばす。
窓からは、美しい満月が覗いていた。