「あぁ、君か。太陽が家に泊めたいって言った子は」
穏やかに笑っているこの人を、私は知ってる。
過去の記憶の中に微かに、でも確かにある。
「はじめまして。太陽の父の冬麻(トウマ)です」
「……こんちには。お世話になっています。泉 満月と言います」
動揺を悟られないように、いつものように。隙を見せてはいけない。
その一瞬が疑念となってしまう。だから作れ、自分を。自分とは違う人格を外から見て客観視しろ。
悟られるな。読まれるな。飲み込まれるな。
脳に刻み込まれた教えが頭の中を駆け巡る。
あぁ、こういうとき嘘をつきつづけていた自分は役にたっていると実感する。
自然に笑顔を作れるから。
「今回は、太陽が君に怪我を負わせてしまったようで……」
「いえ、それは私のせいなんです。ちょっとヘマをして、自分で怪我をしたんです。太陽は何も悪くないですよ」
ニッコリと笑うと、冬麻さんはスッと目を細めた。
微かに、本当に少しだけ、冬麻さんから殺気を感じた。
「君は、本当にそう思っているんだね」
「はい」
ずしん、と空気が一気に重苦しくなる。
さっきからちょっと重かったけど。
殺気と、上に立つものしか出せないような威厳に満ちた雰囲気。
これは普通の人なら確かに耐えられないと思う。
でも、生憎私は普通じゃない。
普通の場所で生きてない。
構わずニッコリと笑うと、隣にいた太陽が少し驚いた気配がした。
冬麻さんも少し楽しそうに口許を緩めた。
「君、いや…満月ちゃんは面白い子だね。驚かせてごめんね」
スッと空気が軽くなった。