この礼の主が、国を統べる者として愚かなのは誰の目にも明らかだった。


けれど自分は彼の臣。


忠心だけではない、自分は、この主を一人きりで死なせるのが忍びないのだ。


そう気付いたのは、夜明け前、母を求める幼子のように、主が礼にすがりついてきた時だった。


寂しい、と、主は時折礼に漏らしていた。


でも今はそなたがいる、と、安心しきった笑顔が必ずそれに続く。



(葉慶……)



俺は、お前のように主上を憎むには、その人となりを知りすぎた。


この方の抱える寂しさ、脆さを。


温もりを、知りすぎたんだ。






「広間に出る。支度を」



「はっ」