いちこが退治屋にもどると祐希が話しかけてきた。


「教会で何かいい情報は見つかった?」


「いい情報じゃないけど、この世界の事情はわかりました。」


いちこが綱樹からきいたことを説明すると祐希は手を震わせた。


「そうなんだ・・・時空が歪んで結界がなくなって、たとえ元の世界にもどれたとしても、そこで俺たちの体が無事だという保証はぜんぜんないってことだな。」


祐希はフウっと大きくため息をついてから、いちこにこういった。


「俺は退治屋に残る努力をするよ。」


「祐希さん?もどりたくないんですか?」


「そりゃ、もどりたいよ。
でも、俺が来たときとは違って俺の体を守る魔物は俺の中にいない。

ってことは俺は時空を飛べたとしても生きてはもどれないってことだろ。
それなら、ここでの仲間として終わることが俺の人生だ。

あ、でもいちこはあっちの世界へもどった方がいいかもな。」


「どうして?」


「七杜まがいな魔物を飼いながら暮らすのはつらいだろう?
俺にはわかるんだ。

リズは七杜の一部だが、七杜じゃない。
しかも、完全な魔物じゃないんだよな。
中途半端な腕力技しか使えない魔物じゃ、この世界じゃ長生きできないよ。」


「だから退治屋さんがいるんでしょう?」


「おまえは客じゃない!
客の身分になって生活したとしても、一度においとか魔力の感覚をかぎつけられたらずっと狙われることになる。

今のおまえは疫病神であり、生きてるのも不思議な女だってことだよ。
七杜はそんなことを望んでないんだ。

きっと・・・七杜はおまえを元の世界にもどすために、命をなげうったんだよ。」


「祐希さん、そんな・・・七杜さんは簡単に命を捨てたりしません。」


「ああ、しないけど、結果的になげうった。
おまえの未来に自分の人生すべてを賭けたともいえるな。」



「だから、そんな命を賭け事にはしませんってば!」


「できるんだよ!心から愛した女のためだったら、そんなバカやるんだよ!
とくにあの人はなっ!」


「えっ・・・うそっ。」


「七杜はおまえを甘やかしっぱなしだった。
俺はそれに腹をたててすねていた。

リズが死んで俺が元通りになったときに朔良にきいたけど、七杜はどんなに周りからバカ扱いされても、いちこは甘やかしたいっていってたらしい。

最初は妹みたいに思って退治屋に入れたものの、身の危険も顧みないところや、自分の鬼を見ても逃げないところとか、しっかりした面を見るにつけ、だんだん自分の恋心に気がついてしまったって朔良にこぼしたそうだ。」


「朔良さん・・・そんなこと何も言ってなかったのに。」


「そりゃそうだ。朔良だっておまえが好きだからな。
おまえに他の男の心を語ってきかせるほど、朔良だって神様じゃないさ。

とにかく、俺はおまえを応援する。
まずは情報を集めて、いざというときのために備えておくことだ。」


「はい、そうですね。
今夜、天使になった前のリズを呼ぶ努力をしてみます。」


「がんばれ。今夜がだめでも気を落とすんじゃないぞ。
明日もあるからな。」


「はい。ありがとう・・・祐希さん。」