しかし、翌日から今までの退治屋とは違う空気が流れて皆が戸惑ってしまった出来事が発生した。

七杜がいないのはもちろんだが、そこは蒜名がうまく仕切っていたから問題なかったが、いちばん変貌したのは祐希だった。


いちこが来た時も自分には誰かを絶対守れない。
自分すらうまく逃げられるかわからないと突き放したような発言ばかりしていたのに、今の祐希はいちこに後ろから近付いて、息を吹きかけたり、軽く抱き着いて守りたいと囁いたりするのだった。


「ゆ、祐希さん!いったいどうしちゃったんですか?」


「どうしたって?俺は今まで通りだけど。」


「そ、そんなことないです!
守れないの大安売りみたいに連呼してたじゃないですか。
それに、私を避けていたっぽい素振りばかりだったのに。」


「そうだっけか?」


「ふむ・・・前のリズナータね。
いちこにあまえて懐いてたリズナータが祐希にもどってしまったと考えればどうかしら。」


「なるほど・・・。あれ、でも変ですよ。
前のリズナータは天使になって消えて、それで祐希さんは本来の祐希さん?

じゃ、七杜さんだったリズがもしも・・・もしも壊れちゃったら・・・もう帰るところがないんじゃ?

もう腐敗しちゃってるでしょう?
七杜さんは祐希さんみたいには戻れないじゃないですか!」


「そうよ、七杜だってわかってて決心したんだもの。
だけど・・・祐希はどうしてここにもどってここで仕事をしていられるのかしらね。」


そんな話をいちこと朔良がしていると、いちこが突然「ウッ・・・あっ!」と胸を押さえてしゃがみこんだ。


「いちこっ!」


「だ、だめっ・・・あっ・・・やああああ」


ボワ~~~~~~ン!


「ふう、いちこはつれないなぁ。
俺をしまいこんでから、まる1日出してくれないんだから。

俺はいちこの顔を見なきゃ、つらくて暴れるぞ。」


「ご、ごめんなさい。
なんか、リズ強引だよぉ。」


「なぜ祐希がここにいるのか?だったよな。
彼は青い本の持ち主だったからだ。」


「え!??????????!!!?」


「祐希の持っていた青い本は消滅していなかった。
だから、本来抜け殻であるはずの祐希は不完全な人間としてこの世界にきて退治屋にいたのさ。

それとこれは俺の推測だが、この世界の住人はいちこと祐希がいた世界と違って人間らしくない要素を持った人間しか集まらないんじゃないかとね。」



「ななとさ・・いえ、リズの本体だった七杜さんも中に鬼を飼っていたとかいうことですか?」


「うん。すべての人がいわくつきと言うと問題があるだろうけど、些細な部分でいちこの世界の人間とは違う生物なのかもしれないと思うんだ。」


「ほぉ・・・今度のリズは理論家だこと。
やっぱり本体が七杜だけのことはあるわね。」


「朔良さん!俺の方見て、比べてる発言しないでくださいよ。
そりゃ、俺は七杜さんみたいに人は束ねられないっすけど・・・だけど・・・。」


「祐希さんのリズは私をいっぱい守ってくれたよ。
背中が焼けちゃってもずっと守ってくれたから、感謝してます。
お礼もまだ言ってなくてごめんなさい。」


「い、いや・・・リズの中の俺は器の俺には伝わらないし、実際どんな心境だったのかもわからないんだ。
ただ、リズでいられなくなったときに、たぶん魔族のリズナータの言葉は聞こえた。

『力を貸してくれてありがとう』みたいなことを聞いた気がするんだ。」


「そうだったんだ・・・。」