翌日、胡紗々から連絡をうけた静歌と七杜が診療所へと見舞いにやってきた。


「大変でしたね。治癒術をすぐにかけますから、これで歩けるようになりますよ。」


「静歌、君が来てくれて助かるよ。今日はもう往診へ行けないかと思ってたからね。」


「先生、聖智のことありがとうございました。」


「いえいえ、がんばったのはいちこくんとリズくんだよ。
ただ、なんか屋根の上で騒動はあったみたいだけどね。あはははは。

じゃ、留守番頼むね、静歌。」


「はい、いってらっしゃい。
どう?聖智・・・痛みはましになった?」


「ええ、背中はとても楽になりました。
でも・・・。」


「背中以外も痛む?他にも傷があるのでしょうか?」


「胸がね・・・。」


「胸?見せてみて・・・これって・・・まさか。」


「なんだ?おい、これはすげえキスマークじゃねえか?
聖智、おまえ重症のけが人のくせによろしくやってんじゃねえぞ。

だから怪我にひびいてるんじゃ・・・。あれ?
この診療所にいた女っていちこだけだよな。

まさか・・・リズとおまえが?」



「そんなわけない!じつはな・・・」


「ま、まじか・・・あのいちこが・・・そんな・・・何も知らない無垢な娘のいちこが・・・そんなみだらな・・・。」


「おい、大声で言わないでください!
いちこはそんなことをした記憶もないんです。」


「どういうことなんだ?」


「私を助けるために、リズにキスすると彼女は約束してしまったんです。

リズは私たちが先日話していたことを気にしていて、魔族のキスが恐ろしい者かどうか確かめてほしいと彼女に頼んだんです。

そして、リズといちこはキスをして軽いうちは何事もなかったのですが、リズが少しディープなキスに移ろうとしたらいちこが豹変してしまったんです。
おそらく、リズの意識が一気にいちこを支配した。
邪悪で卑猥な思いがそのままいちこに乗り移って、いちこはリズを犯し始めたんです。

ですから、私はリズを屋根から突き落とし、私の身と術でいちこを正気に戻しました。
飲ませたのは、朔良から以前もらっていた淫猥毒の毒消しです。」


「なんでそんなものおまえが持ってたんだよ。」


「そ、それは・・・」


「ふふふ、私も持っているんですよ。朔良もね。
見かけが美しいと、よからぬ行為を求めるお客も多いですからね。
淫猥毒の類を使ってでも私たちを意のままにしようとする人たちがいるのです。」


「おえっ!とんでもねえ客を相手にしてるんだな。
俺はべつにおまえら見ても、男だからそういう気にはなれねえよ。

だけど・・・いちこがそれを知ったら・・・なんて言えばいいんだろうな。

リズとのキスは無害とはいえないのだから、説明しなきゃいけないし。
弱ったな。」


「リズを襲ってしまう効果があったことを伝えて、それを聖智が止めてやったところまでを説明してやればいいのではないでしょうか?」


「そうだな、それくらいなら聖智が男前をあげるだけの効果だから、いちこは傷つかねえな。

そういうことにしよう。
そして、リズにいちこにキスさせないようにしなくてはな。」


午後から胡紗々が往診からもどってきて、聖智の退院が決まった。

「これで明日からまた仕事に就けます。
先生、お世話になりました。」


「私はいつも大したことはしてないよ。
君たちの能力に助けられることの方が多いからね。

あ・・・そういえば、さっきいちこくんに呼び止められて、君の容体をきいていたよ。」


「何か言ったんですか?」


「退院のことだけだけど・・・。」


「そうですか。では、帰りますので。
ありがとうございました。」