こんなに走ったのはきっと燃える城から逃げる時以来だろう。またはもっと久しぶりかもしれない。

(吉辰様が帰ってくる…。)

どんな顔をしてお迎えすればいいのだろうか。どのようなお言葉をかければいいのだろうか。吉辰は何を食べたいと思うだろうか。鈴姫は走りながら頭の中でいろいろなことを考えたが、何一つ考えはまとまらなかった。

城に着くと、もう夕方となっていた。父・辰之介はすでに家臣に混じって広間の掃除をしていた。きっと吉辰と家来たちが帰ってきたときのためだろう。辰之介は鈴姫の顔を見るなり、上機嫌そうに笑った。鈴姫はたすきで小袖とめて、さっそく侍女たちに混じって夕餉の準備を始めた。さっきはあんなにいろいろ考えていたのに、たすきを結んだ瞬間から次々と献立が浮かんだ。吉辰の好物である湯豆腐に城下でもらった野菜を入れ、